万引き家族は「家族」なのか。中世ヨーロッパにみる家族観。

中世
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🔄 最終更新日 2020年4月9日 by takara_semi

沈没した子供十字軍

1212年、神の啓示を受けたとするフランスの小村に住んでいた少年の呼びかけによって、少年少女を中心とした「子供十字軍」が結成されました。しかしながら、彼らは十字軍として聖地奪還に向かう航海の途中に消息を絶ってしまいます。彼らが乗る7隻の船のうち2隻が沈没し、残った5隻の船に乗っていた子供たちは奴隷にされてしまったからです。

この事実は、子供たちが旅立ってから20年経ったある日、生き残った少年が帰国し知らせたことで初めて判明しました。子供たちには親や家族がいるのにもかかわらず、何故この事実が20年もの間、分からないでいたのでしょうか。

驚くことに、それは、子供たちの親や家族が、彼らが帰ってこないことを気にもかけなかったからだと言われています。では、何故彼らの親や家族は、とても愛しい存在であるはずの「わが子」を探そうと努力しなかったのでしょうか。この疑問を解決するためには、当時のヨーロッパの人々が持つ「家族」そして「子供」という概念について知る必要があります。

「子供」は立派な「大人」

ヨーロッパの人々の意識の中に「子供」という概念が出現したのは16世紀~17世紀のころで、それまで「子供」という概念は存在しませんでした。6歳までは幼児、7歳以降は大人という一応の境目は存在しましたが、そのどちらも現在の日本で言われる「子供」と一致するものではありません。7歳に達した人のほとんどは、大人と同等な働きが求められていました。

つまり、中世ヨーロッパの社会において「子供」は立派な「大人」だったのです。その背景には、当時の人々の平均寿命が35歳ほどであり早い段階での労働や技術の習得が必須であったという社会情勢があります。また、一部の上流階級の女性たちは、下層階級の女性たちに乳母として自分の子供を育てさせていました。一方で下層階級の女性たちは、自分の子供を乳母に預けてまで、上流階級の女性の子供を育て、お金を稼いでいました。さらに、親が自分の顔を見られずに子供を捨てることのできる慈悲団体の窓口も存在したそうです。

生き残るための「家族」

これらのことから当時の「家族」というもののあり方が見えてきます。お金を稼ぐためには、自分の子でなく人の子を育て、それでも生活が苦しいとなると、わが子は捨ててしまう。

これは古代ローマからある「働けない子供は捨てる」という考えからくるものだろうと思われます。子供を捨てることで、家族の負担が減り、生きていくことができるのです。つまり当時の「家族」という集団の最大の目的は「生きていく」ことだったのです。これは現代の日本における「家族」の概念とは大きく異なります。

映画「万引き家族」では、血縁ではなく「万引き」という軽犯罪の絆で結ばれた家族が描かれていましたが、これはまさに「生きる」ために支えあう集団という意味で、中世ヨーロッパの価値観における立派な「家族」だと考えることができます。

もちろん例外もあります。上流階級のお金持ちがそうでした。彼らの場合、生活に余裕があり、一部では現代と同じ「子供」の概念も存在していました。なので、前述の子供十字軍失踪事件の際、帰ってこないわが子をなんとかして探しだそうとした人もいたようです。しかし、そのような余裕のある人々は全体の内のほんの一握りで、やはり当時の社会の価値観は大多数を占める一般民衆のそれでした。

つまり、当時のヨーロッパには、そもそも「子供」という概念が存在しておらず、平均年齢12歳ほどであったとされる「子供十字軍」は背丈は小さいものの立派な「大人」だったのです。そして「家族」は「生きていくための集団」であり、当時食べ物すら満足でないような生活を強いられていた一般民衆の親には、失踪したわが子を捜す余裕がなかったというわけです。もちろんわが子が愛しい存在ではあったはずですが、生きていくためには仕方がなかったのです。

「家族」や「子供」の存在があまりに身近なために、その概念は、時代や地域を問わず普遍的なものであると考えていました。しかし、これらの捉え方は今日に至るまで変化し続け、時代や地域によって大きく異なるものでした。ある事物や概念について考えるとき、既存の常識に囚われず、柔軟に思考する必要があります。相手の状況・立場で考える。当たり前を疑い、固定観念に囚われない。これは史実の理解だけでなく、日常的な問題解決においても大切な考えだと思います。

 

<参考文献>
[1]木村 尚三郎, “家族の時代”, 新潮社(1985).
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takara_semi
著者紹介 旧帝大学生。自然科学/社会学/教育学/健康増進医学/工学/数学など、および学際的な研究領域に興味があります。

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