🔄 最終更新日 2020年4月9日 by takara_semi
GPSとインターネット
アメリカでのイノベーションの例には非常に興味深いものが多くあります。例えば、今や必要不可欠な技術であるGPSやインターネットの開発は、中長期的な研究計画として世界で最も巨大な成果を生んだ事例の一つであることは間違いありません。
ラディカル・イノベーション
優れた革新的なイノベーションには長期的なVisionとそれを実践する計画が重要です。従来の価値観を覆すほどの革新は「ラディカル・イノベーション」と呼ばれ、一方で、既存製品の改良の積み重ねによるイノベーションは「インクリメンタル・イノベーション」と呼ばれます。
人口や資本で世界に劣る日本の経済成長の未来は、このラディカル・イノベーションを起こせるかどうかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。なぜならイノベーションは「人口や資本」以外の経済成長における外生変数である「技術水準」を大きく向上させ得るためです。ここでいうイノベーションは狭義の「技術革新」だけを指すものではありません。これまでとは全く違った新たな考え方や仕組みを取り入れることで新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化をもたらすことも意味します。GPSやインターネットの技術は人々の日常生活を変え、また市場にも大きな影響を与えたという意味で、20世紀を代表するラディカル・イノベーションであったといえます。
次々と革新を起こすDARPA
アメリカには革新的な技術を次々と生み出すDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国国防高等研究計画局)という機関があります。DARPAの役割は「見込みのある技術的アイデア」を発掘し、国防のニーズにいち早く対応することです。DARPAは、この「見込み」を見分ける「先見性」つまりVisionを見通す力に非常に長けています。ロボット技術や人工知能技術なども古くから開発事業をすすめ、関わるプロジェクトでは、バク宙する人型ロボットAtlasや音声対話システムSiriの開発など、着実に成果を上げ、イノベーションを起こし続けています。日本においても、このようなラディカル・イノベーションを起こすためには、近視眼的な研究開発ではなく、長期的な「見込み」にかけるハイリスクハイリターンなVisionを持った研究開発に取り組む風土や社会基盤の積極的な整備が必要なのかもしれません。
Give&Takeの精神の欠乏
さらに、日本と米国の研究の違いとして「日本は基礎研究と応用研究が分断されている」とのリサーチ結果があります。近年、日本の各企業において産官学連携や集中研究室の設立、企業内の他部門との融合研究等、様々な形の基礎研究と応用研究のつながりは増えているようにも思う一方で、これらの協力は「自分の技術の足りない部分を得ている」だけのようにも感じ、真に相手と協創しようという姿勢ではないようにも感じます。
米国では大学を拠点として、非常に上手く競合する企業同士が研究に取り組んでいます。これらの協力では、優秀な研究者が送り込まれ、技術漏洩など当然心得た上で相互に知識のGive&Takeを行っており、そうすることで新しいイノベーションを生み続けています。この協力と融合の姿勢は日本も見習うべき部分も多くあり、企業が自身の技術に対して保守的にならず、柔軟に外部の考えを取り入れる方針を持つべきなのではないかと感じます。
日本が陥るガラパゴス教育
先に述べましたが、世界では政府や企業、大学の強力な連携の元、圧倒的なイノベーションが起きています。急速な技術の高水準化が世界で進む中、グローバル社会をリードして行くためには、この世界の流れに柔軟に対応し、協力していく姿勢が日本にも必要不可欠です。この協力体制には、日本国内にとどまることのない世界各国の大学や企業との連携が必須となるでしょう。
しかしながらGEイノベーション・バロメーター2013年調査結果によれば、日本は世界平均に対し、海外企業との連携が取りにくく、また、大学教育の国際協力の奨励のポイントも著しく低い状況にあります。このように、日本の欠点が数値化されて明示されると、日本のガラパゴス教育からの脱却が喫緊の課題であることは明らかです。ここに日本がなぜ世界をリードするどころか、世界のマーケット競争で劣勢になってしまったか、その理由があると考えられます。新技術で負けたことは大きな原因ではありません。世界から取り残され、その流れに柔軟かつ迅速に対応できなかったことが最大の原因なのです。
リーダーシップとパートナーシップ
イノベーションによる経済成長の実現を考えると、世界が今、本当に必要としているものを知る必要があります。そのためには、世界的な時代の流れに沿うように柔軟にVisionを変化させる姿勢が重要となります。多様な変化に応じて、見込みのある Visionを適切に選択し、実行できるリーダーシップ、またその選択に柔軟に対応できる人材が、今の時代には必要なのではないでしょうか。
このままでは日本が世界をリードすることは難しいのかもしれません。しかしながら、日本にその素質や能力は十二分にあるように思います。今の日本に足りない部分、劣っている部分は、研究開発力や技術力ではありません。世界の流れに乗る「パートナーシップによる世界を舞台にした共創」の精神こそが欠けている部分であり、またイノベーションの鍵でもあるのでしょう。