素材こそが全てのものづくりの根幹。「動く繊維」の可能性。

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🔄 最終更新日 2020年4月9日 by takara_semi

繊維の特徴と用途展開

みなさんが繊維に求める特徴は何でしょうか。どんな繊維があれば面白いでしょうか。繊維の特性としては例えば「柔軟性」「頑健性」「電気伝導性」「難燃性」「耐薬品性」「耐水性」などが挙げられます。これらの特性は、うまく設計すればあらゆる分野で技術革新を起こす可能性を秘めています。ぱっと思いつくところでいうと「介護」「医療」「ロボット」の分野では、先に挙げた特性が非常に有益に働くものだと考えられます。

繊維産業は、国内では産業構造の変化により生産量の減少が続いていますが、世界的に見れば、中国をはじめ新興国市場における需要拡大で成長を続けている産業です。日本の繊維産業がグローバルな産業として生き残るためには、日本の高い技術力と豊かで繊細な感性を活かし、先端技術・材料の創出を通じた機能素材の開発や社会問題への対応など、前衛的な技術開発戦略が必要なのではないでしょうか。特に、合成繊維産業の成長率は人口の増加率よりも大きく、上手くニーズを捉え、様々な用途展開に成功すれば、継続的に成長し得る巨大産業でもあります。

介護を変える「動く繊維」

そこで、日本の高い技術力と前衛的な繊維の利用方法および、時代からのニーズとして日本の抱える重要課題である「介護」問題と、日本が得意とする「ロボット」技術への貢献を考え、素材に注目したマテリアルコンピューティング可能な次世代素材としての「動く繊維」を提案します。線状バイオメタルと導電糸を編み込むことによって、筋肉のように柔軟な挙動を示す「動く繊維」を開発することで、様々なニーズに応える新素材となることが期待できます。

今の日本は少子高齢化に伴い,被介護者の生活支援環境の未整備と、介護者の負担の増加が大きな問題となっています。そこで、介護を支援する技術開発が期待されているのですが、非常に限られたニーズを満たすものか、もしくは研究段階のものが多いのが現状です。例えばロボット技術に関しては、介護ロボットには高い安全性と同時に大きな出力が求められ、工場で動作するような高剛性なロボットアーム技術は望ましくありません。そこで、繊維の持つ柔軟性と頑健性、さらに耐薬品性や難燃性を活かした「動く繊維」の応用例として「動く介護シート」という介護支援製品を考えます。「動く介護シート」は、そのシートが自在に形状を変化させることで、その上に横たわる人を移動させたり、姿勢を変えたりすることができる様に設計します。このシートは姿勢を変えることが困難なために生じる「褥瘡」の問題を解決することで介護者の負担を軽減し、また、エコノミー症候群が憂慮される自動車や飛行機の座席面にも応用可能な技術であると考えられます。また、他の応用例としては「ゆりかごシート」として、ベビーカーやベビーベッドに応用することで、女性の育児負担を軽減できる可能性もあります。これらは全て、繊維のもつ高い柔軟性と頑健性があってこそ実現し得る新技術です。

新たな表現を生み出す新繊維

介護やロボット関係の技術開発は、今後、日本に限らず世界的に成長する分野・領域であり、それらへの応用は「動く繊維」の可能性をさらに加速するものと考えられます。本記事で提案する「動く繊維」は、実現されれば次世代の高機能・高性能繊維として世界各国で様々な用途で活用されることは間違いないだろうと考えていますが、その開発には、バイオテクノロジーやナノテクノロジーなどの先端技術との融合が必要です。繊維産業がこれらの先端技術を利用することで、本提案に限らず、様々な分野の革新的な技術的発展を誘発し得ることでしょう。

「動く繊維」の類似研究としては、自在にその「形状を制御可能」な布というアイデアが提案されています。しかし自在に伸縮し、力を発揮するような、アクチュエータとしての機能を有する素材は、私が調査したところ、現状では実用化されていません。素材は、すべてのものづくりの根幹を成しています。素材がものづくりの表現を規定し、素材が構成や組み立て手順を方向付けているのです。そう考えると「動く素材」はその表現に新たな可能性を見い出すことにつながる強力なツールになるのではないでしょうか。これは単なる技術開発ではなく、社会のニーズに応え、繊維の新しい価値を生む革新的行為(イノベーション)だと言えます。素材には社会を変える力があります。素材の革新は社会の革新であり、イノベーションです。本記事が、素材の可能性についてより深く考える、ひとつのきっかけとなれば幸いです。今後の素材の開発、特に繊維産業での革新から目が離せません。

<参考文献>
[1] 脇田 玲, “Access to Materials -デザイン/アート/建築のためのマテリアルコンピューティング入門”, ビー・エヌ・エヌ新社(2013).
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takara_semi
著者紹介 旧帝大学生。自然科学/社会学/教育学/健康増進医学/工学/数学など、および学際的な研究領域に興味があります。

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