🔄 最終更新日 2021年5月26日 by takara_semi
1章:場合の数と確率
本章では「場合の数」「確率」について学習する.
場合の数
❶ 集合の要素の個数
集合 $A$ の要素の個数が有限であるとき,その個数を $n(A)$ と表す.この表現を用いることで,集合の要素について,以下のような計算をすることができる.
(a) 和集合の要素の個数
和集合の要素の個数は,次のようにして計算できる.
$A \cap B = \varnothing$ のときは,$n(A \cup B) =n(A)+n(B)$ となる.
(b) 補集合の要素の個数
補集合の要素の個数は,$U$ を全体集合として,次のようにして計算できる.
また,ド・モルガンの法則を利用すれば,以下の関係が成り立つことが分かる.
(ii) $n(\overline{A} \cup \overline{B})$$=n(\overline{A \cap B})$$=n(U)-n(A \cap B)$
(c) 3つの集合の和集合の要素の個数
ベン図を用いて考えれば自明であるが,全体集合 $U$ の3つの部分集合 $A, B, C$ について,次の等式が成り立つことが分かる.複雑な要素の個数を計算する必要がある場合は,ベン図を活用することでケアレスミスを大幅に減らすことができる.
❷ 場合の数
(a) 樹形図
各場合を,枝分かれで表した図を「樹形図」という.樹形図を描くことで,複雑なケースの場合の数も,漏れなく,重複なく,正確に数え上げることができる.
(b) 和の法則
2つの事柄 A と B の起こり方に重複はないとする.A の起こり方が $a$ 通りあり,B の起こり方が $b$ 通りあれば「A または B の起こる場合」は,$a+b$ 通りある(これを「和の法則」という).3つ以上の事柄についても,同様の法則が成り立つ.
(c) 積の法則
事柄 A の起こり方が $a$ 通りあり,そのどの場合に対しても事柄 B の起こり方が $b$ 通りあれば,A が起こり,そして B が起こる場合は,$a \times b$ 通りある(これを「積の法則」という).3つ以上の事柄についても,同様の法則が成り立つ.
❸ 順列(Permutations)
$n$ 個から $r$ 個取る順列 (異なる $n$ 個のものから異なる $r$ 個を取り出して並べる順列) の総数は次のようにして計算できる.
記号Pは順列の英語”Permutations”の頭文字に由来する.また,特に異なる $n$ 個すべてを並べる順列の総数は次のようにして計算できる.
つまり,$n!$ 通り($n$の階乗通り)であることが分かる.また ${}_n P_0=1$,$0!=1$と定めると,順列は次のように表現することができる.
順列の計算の理解を深めるため,順列①③両方の計算が同義であることを確認しておくことが望ましい.
(a) 円順列
異なる $n$ 個の円順列 (ものを円形に並べる順列) の総数は次のようにして計算できる.
(b) 重複順列
$n$ 個から $r$ 個取る重複順列 (異なる $n$ 個のものから重複を許して $r$ 個取って並べる順列)の総数は次のようにして計算できる.
❹ 組合せ(Combinations)
$n$ 個から $r$ 個取る組合せ (異なる $n$ 個のものから異なる $r$ 個を取り出して作る組合せ) の総数は次のようにして計算できる.
分母,分子ともに $r$ 個の数の積であることに注目すれば,実際の計算では複雑なものにはならないことが分かる.とくに $r=n$ の場合は次のようになる.
また,$0!=1$,${}_n C_0 =1$ と定めると,組合せの計算は以下のように表すことができる.
組合せの問題を解く際には,③の式を利用すれば,計算量が少なくなる.ただし,組合せの意味の理解のために,①③が同義であることを,計算で確かめた上で,③の式を利用することが望ましい.また組合せ ${}_n C_r$ の性質として,以下の関係も重要である.
この関係式が成り立つことを確かめておく.
{}_n C_r &=& \frac{n!}{r!(n-r)!}\\
&=& \frac{n!}{(n-r)!r!}\\
&=& \frac{n!}{(n-r)!(n-n+r)!}\\
&=& \frac{n!}{(n-r)!\{n-(n-r)\}!}\\
&=& {}_n C_{n-r}
\end{eqnarray}$
(a) 同じものを含む順列
$a$ が $p$ 個,$b$ が $q$ 個,$c$ が $r$ 個あるとき,それら全部を1列に並べる順列の総数は $p+q+r=n$ として次のようにして計算できる.
この関係式は,組合せの定義通りに計算することで導くことができる.
{}_n C_p \times {}_{n-p} C_q &=& \frac{n!}{r!(n-p)!} \frac{(n-p)!}{q!(n-p-q)!}\\
&=& \frac{n!(n-p)!}{r!(n-p)!q!(n-p-q)!}\\
&=& \frac{n!}{r!q!(n-p-q)!}\\
&=& \frac{n!}{p!q!r!}
\end{eqnarray}$
一般に,$n$ 個のもののうち,$p$ 個は同じもの,$q$ 個は別の同じもの,$r$ 個はまた別の同じもの,$\cdots \cdots$ であるとき,これら $n$ 個のもの全部を1列に並べる順列の総数は,$p+q+r+ \cdots \cdots=n$ として,次のようにして計算できる.
(b) 重複を許して作る組合せ
異なる $n$ 個のものから重複を許して $r$ 個取って作る組合せ,つまり重複組合せの総数は次のようにして計算できる.
(*) 重複組合せの考え方:重複組合せの総数を知るためのアイデアは,$r$個の「◯」と$n−1$本のしきり「|」 を一列に並べる,というもの.たとえば,{A,B,C,D,E}の中から3つを,重複を許して選ぶ組合せの総数は,3つの「◯」($r$個)と4本のしきり「|」($n-1$本)を用意することで $\{A,B,E\}$,$\{A,C,C\}$,$\{B,C,D\}$ などはそれぞれ「◯」と「|」を用いて{◯|◯|||◯},{◯||◯◯||},{|◯|◯|◯|}という記号の順列に対応する(左から1番目の「|」より左側にある「◯」には$A$を,1番目の「|」と 2番目の「|」の間にある「◯」には$B$を…と対応させている).よって重複組合せは,この「◯」と「|」の記号の順列と1対1に対応することが分かる.ゆえに,上の例の場合,求める組合せの総数は,7箇所($r+(n-1)$箇所)のどの位置に「◯」を3つ置くか($r$個置くか)を選ぶ総数に等しいため,求める組合せは ${}_{7} C_3$ 通りとなり,一般化すると ${}_{(n-1)+r} C_r$ 通りとなることが分かる.
確率
❶ 事象と確率
同じ条件のもとで繰り返すことができる実験や観測を「試行」という.また,試行の結果として起こる事柄を「事象」という.1つの試行において,起こりうる結果全体を集合 $U$ で表すとき,$U$ 自身で表される事象を「全事象」,$U$ のただ1つの要素からなる集合で表される事象を「根元事象」という.
(a) 確率
ある試行におけるすべての根元事象が同様に確からしいとする.このとき,事象 $A$ の確率 $P(A)$ は$U$ を全事象として,次のようにして計算できる.
❷ 確率の基本性質
どのような事象 $A$ についても $0≦P(A)≦1$ であり,とくに,空事象 $\varnothing$ について $P(\varnothing)=0$,全事象 $U$ について $P(U)=1$ である.
(a) 確率の加法定理
事象 $A,B$ が互いに排反であるとき,確率の加法定理は以下の通り.
確率の加法定理を拡張すると,事象 $A,B,C$ が互いに排反 (どの2つの事象も互いに排反) であるとき,3つの事象のいずれかが起こる確率 $P(A \cup B \cup C)$ は $P(A \cup B \cup C)=P(A)+P(B)+P(C)$ として計算できる.
(b) 余事象と確率
余事象の確率は $P(A)+P(\overline{A})=1$ であることから次のようにして計算できる.
(c) 一般の和事象の確率
2つの事象 $A,B$ について,一般の和事象の確率は次のようにして計算できる.
❸ 独立な試行と確率
いくつかの試行において,どの試行の結果も他の試行の結果に影響を与えないとき,これらの試行は 「独立」であるという.2つの試行 S と T が独立であるとき,S で事象 $A$ が起こり,かつ T で事象 $B$ が起こる確率 $p$ は,$P(A)$ と $P(B)$ の積に等しい.すなわち $p=P(A) \times (B)$ 独立な3つ以上の試行についても,同様のことが成り立つ.
(a) 反復試行の確率
1回の試行で事象 $A$ の起こる確率を $p$ とする.この試行を $n$ 回行う反復試行で,$A$ がちょうど $r$ 回起こる確率は次のようにして計算できる.
❹ 条件付き確率
1つの試行における2つの事象 $A,B$ について,事象 $A$ が起こったとして,そのときに事象 $B$ の起こる確率 $P_A(B)$ は,$n(A)≠0,P(A)≠0$ として,次のようにして計算できる.
上述の条件付確率 $P_A(B)$ の意味は「$A$ が起こったときの $B$ が起こる条件付き確率」となる.
(a) 確率の乗法定理
$P(A)≠0$ のとき,2つの事象 $A,B$ がともに起こる確率は次のようにして計算できる.
これは条件付確率の定義から明らかである.